日本のうま味、だし【後編】

前回に引き続き、後編でも“だし”についてお話していきたいと思います。

●日本のだしは究極のインスタント

日本のだしが短時間でうま味を引き出せるのは、それを作る段階で時間と手間をかけているからでしょう。使うときに簡単にうま味が出るのは、昆布が成長するまでに1年、鰹節のカビ付けに1年かけているからこそです。水に浸けておくだけでうま味を引き出す「浸けだし」という方法もあるほどで、日本のだしは究極のインスタント食品ともいえますね。その一方で、「だしをとるのは面倒臭い、むずかしい」というイメージがついてしまっているのも事実ですが、出来ればあまり気負わず、日本のだしの便利さを日常生活に活かしたいものです。朝の味噌汁なら、前夜、お鍋に水を張り、煮干しや刻んだ昆布、野菜などを入れておく。翌朝、それを少し煮たら味噌を溶き入れて、煮干しも昆布も全部食べてしまう。肩のチカラを抜いて作ってみると、だしの便利さに驚かされますし、案外、手間がなく簡単ですよ。

●うま味の効用

うま味は、医療の現場でも活用されています。例えば、加齢や薬の副作用などで唾液が少なくなり痛みや味覚障害を生じる「ドライマウス」の治療に使われるのは、昆布茶です。薄めの昆布茶を飲むことで口の中の受容体がうま味を感知し、反射的に保湿効果の高いネバネバした唾液が出て、症状の改善につながるそうです。昆布茶のうま味がスイッチを押しているだけで、実際には自分の身体が治しているので、副作用の心配もありません。放射線治療などで味覚が低下した癌患者の食事に、うま味を使う病院もあります。そこでは、ほうれん草を「だし」で洗っておひたしにしたり、鮭にうま味の強い胡麻ペーストを塗って焼いたりして、おいしく食べることで免疫力を高め、治療に耐えられる体力をつけてもらうのだとか。また、肥満解消にだしを活用する研究も進められているそうです。しかし、うま味成分さえあればいいかというと、そう簡単なことではありません。うま味というのは、あくまでも、だしの一成分なので、他のさまざまな成分があってこそ。いろいろな成分が複雑な味わいを生み、味覚を刺激するのかもしれないのです。そうとわかれば、家庭で「だし」をとることの必要性も見えてくる気がしますね。

「うまし(甘し・美し・旨し)」という古語は、「おいしい」だけでなく、「満ち足りて快い」ことやモノを意味する言葉で、日々の食生活を「うまし」の状態にするのが、うま味を含んだ「だし」なのです。

日々の料理のだしの重要さをお分かりいただけたでしょうか。

ぜひ一度、ご自身でだしをとってみてください。いつもの食卓が、より味わい深いものになるはずです。

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